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感情をどう表現するか――声の表現(2)


こんにちは。ビートワン代表の金沢寿一です。今回の記事では、声における感情表現についてお話しします。感情を伴った声で表現するには、どのようなことを意識すべきなのでしょうか。

喜怒哀楽によって五十音の発声は変わる

感情の種類を表す四字熟語に、「喜怒哀楽」というものがあります。五十音の発声にこれらを乗せることを考えてみましょう。このとき、「喜」のときと「哀」のときに全く同じ口型で「あ」と発声するでしょうか。そんなはずはありません。それでは表現にはなりませんね。

たとえば「喜」であれば口型を大きく発声し、「哀」であれば口型を小さく発声する、ということは、私たち誰もが日常生活の中で行っていることです(もちろん、「喜」にも大声で笑うような「喜」から噛み締めるような「喜」まで、様々なケースがあります)。しかし、文字を目の前にしていつも同じく五十音の練習をしていると、どのような感情表現においても同じ口型で発声してしまいがちです。本来、口型も動きの大きさも微妙に異なっているべきなのです

ですから、繰り返し五十音を練習することはもちろん大切なことですが、それをワンパターンに行うのではなく、喜怒哀楽を意識しながら行うようにするとよいでしょう。(「五十音」については、以下の滑舌についての記事で詳しく触れています)

言葉を「理解」した上で表現しよう

ナレーションにおいて表現するときには、漠然とした形から入るのではなく、「今から表現する言葉を理解したうえで入る」ということが重要です。このことは、芝居と比較するとわかりやすいかもしれません。芝居では、役者にはセリフを覚える過程で言葉を理解する機会があります。しかしナレーションの場合、目の前には常に原稿という形で文字情報があります。そのため、「理解する前に声に出す」ということができてしまうのです。これを避けることが大切です。

芝居においても、レベルの高い役者さんの中には、より深く言葉を理解するために、稽古の際には「自分の中に感情が湧き上がるまでは言葉にして声に出さない」という方もいます。

ただし、「理解」という言葉を四角四面にとらえて「これが唯一の正解だ」というように表現してしまってはいけません。かといって、感情は抽象的なものだからと、ただ漠然とした表現をしてしまってもいけません。「意味を理解する」ということは、気持ちを動かすための道筋なのです

つまり「ここは『怒』の表現だから」と「怒」の感情をあらかじめ作って当てはめるのではなく、「怒」が表現されている原稿の言葉の意味を、文脈も含めてまずしっかりと理解して、そこに感情がついてくる、というあり方が必須なのです。それが生身の表現につながるのです。あくまでも、楽しそうな気持ちを「作る」のではなく、意味を理解することによって楽しく「なる」ということが大切です。それにより、ひとつのナレーションの中での感情の移り変わりも俊敏かつ滑らかに行えるのです。

ただし、このような感情の移り変わりには「文字を見て意味を理解して相手に伝える」場合における非日常的な部分があります。それは日常における感情の伝え方とは異なるプロセスですから、一朝一夕に身につくものではありません。しかし、それこそがナレーターの仕事であり、ナレーション表現の持つ可能性が広がっている部分なのです。訓練は必要ですが、これができるようになるとプロのナレーターとしての厚みが生まれてくるのだと考えています。

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