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口元でなく全身で声を出そう――声の表現(1)


こんにちは。ビートワン代表の金沢寿一です。前回までは声質や滑舌などを中心に、主に表現以前の声の「機能的な部分」を中心にお話ししてきました。今回からは、声の表現についての重要な考え方を中心にお伝えしていきます。

全身を使って声を出すこと

「声の仕事」と考えると、どうしても口元に集中してしまいがちです。しかし、基本中の基本として意識しなければならないのは「全身を使って声を出す」ことだと私は考えています。これはナレーターに限ったことではありません。たとえば歌手においても、プロの方々は「全身を使って」声を出しています。

それでは、「全身を使って声を出す」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?

「全身を使って声を出す」ということを一般的に表現すると「『自分の体が楽器である』というイメージを持つ」ことになります。これは、自分の体を共鳴体のように使うということです。ここでいう「共鳴体」については、ギターやチェロのような楽器のボディーの部分をイメージしてください。

なお、これは解剖学的に正しい認識というわけではありません。表現するうえでのイメージの持ち方として理解してください。

「息」が「言葉」になるまで

「声を出すときに、私たちは何をしているか」について考えてみましょう。まず、「息」を吸って体内に空気を入れます。この「息」を体外に出すとき、喉まではただの「息」ですが、喉(声帯)を通ったところで「音」になります。そして、この「音」が口型や舌の形を通ることで「五十音」の形になります。ここで、ナレーション原稿であったり、演技の場合はセリフに基づいて「意思」を入れることによって、「言葉」として相手に伝わるのです。これが「声」です。

(ここで大切なのは、想定した相手に向かって、つまり聞き手に向かって紡いでいくことです。これについては、別記事で詳しくご説明します。)

まずはこのように、声を出すまでには「息」→「音」→「五十音」→「声」→「言葉」という過程があるということを意識してください。

「タイムラグ」を感じよう

この「息」から「言葉」までの過程をすべて同時に行おうとすると、「口元だけの発声」になってしまいます。そうならないためには、各過程ごとにほんの一瞬存在する「タイムラグ」を感じることです。これは比喩だとか概念のような話ではなく、事実メカニズムとして物理的に存在する「タイムラグ」です。これを意識することが、全身を使って声を出すことのスタートになります。

この「タイムラグ」ですが、あまりに一瞬のことですので、頭で意識しすぎてしまうと体が固まってしまいます。ですから、この仕組みを理解したうえで、どこかで感じておく(感覚のフィルターを作っておく)のがよいでしょう。

私たちにとって声を出すことは、子供のころから当たり前のことになっています。あまりピンと来ないかもしれませんが、実際は誰しも幼いころに「全身を使って声を出すこと」は無意識に行えているのです。電車の中などでも、まだ言葉を知らない(うまく使えない)子どもの声が非常によく通るという場面に遭遇することがあるでしょう。私たち大人は、言葉を覚えることによって、全身を使わない口元だけの発声でも相手に意思を伝えられるということを身に着けてしまうのです。そのため、マイクを前にしても全身を使えなくなってしまうのです。

「口元だけの発声」はなぜいけないか

口元だけで発声してしまうと、どのような問題があるのでしょうか。まず、「一音一音が不必要に際立ってしまう」ということです。結果として言葉の自然さがなくなっていき、そしてワンパターンの表現になってしまうのです。ここで起こっているのは、前回の記事で書いたことと同様のことです。

それから、「口元だけで長く声を出していると、ものすごく疲れてしまう」ということです。この疲労は声そのものに影響してしまい、たとえば30分に渡って収録をした場合、最初の5分と最後の5分で声が変わってしまうのです。これではプロの仕事として成立しません。

このように、全身を使って声を出すことは、プロとして表現を行うにあたって非常に重要な基本です。ナレーターは通常座って仕事をするので、本番では主に「上半身」を使うことになりますが、トレーニングをするときにはぜひ「全身」を意識してみてください。

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